私は痛みを専門に研究するかたわら、臨床で慢性疼痛の治療にあたっています。現在、日本国内には、慢性疼痛に悩み苦しむ人が数多くいます。厚生労働省の「慢性の痛み対策研究事業」の一環として行われた調査によると、3カ月以上持続する慢性疼痛に悩む人の割合は15%~22%で、およそ5人に1人もの人が長引く痛みを抱えているのです。しかし、慢性疼痛を訴える人の中で病院にかかっている人は45%に過ぎず、その中でも痛みの治療に満足している人は30%を切っています。慢性疼痛の患者さんの多くが、「痛みがあるのは仕方がない」「病院に行っても治らない」と感じているようです。 急性痛はケガや炎症によって生じる症状であり、原因が治れば痛みもなくなります。これに対して慢性疼痛は、ケガや炎症はすでに治っているのにもかかわらず痛みが持続する状態です。なぜ、痛みが続くのか。最近の研究で、慢性疼痛は痛みに関わる神経系、特に脳の神経が