ニーチェの超人道徳は現代の倫理に二つの重要なアイディアをもたらした。 ひとつは、倫理を静態的な「善い行為と悪い行為のカタログ」としては定立せず、「いま、ここにおける倫理的なる行動とは何か?」という問いを絶えず問い続ける休息も終わりもない絶望的な「超越の緊張」として、ひたすら前のめりに走り続けるような「運動性」として構想したことである。 いまひとつは、倫理を、万人がめざすものではなく、「選ばれたる少数」だけが引き受ける責務として、「貴族の責務」(noblesse oblige) として観念したことである。 ニーチェはこう書いている。 「高貴であることのしるし。すなわち、われわれの義務を、すべての人間に対する義務にまで引き下げようなどとはけっして考えないこと。おのれ自身の責任を譲り渡すことを欲せず、分かち合うことをも欲しないこと。自己の特権とその行使を、自己の義務のうちに数えること。(…) こ
人権や平等といったリベラルが重視する価値の「虚妄」を、「科学的エビデンス」の名の下に暴く(と称する)知的ネットワークが、欧米社会に勃興した。彼らはどんな出自を持ち、何を主張しているのか。 ネットカルチャーに詳しく、このほど『ダークウェブ・アンダーグラウンド 社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』を上梓した文筆家の木澤佐登志氏による、最前線からの報告をお届けする。 ネットに遍在する「ダーク」な言論人たち 「ダーク」な思想が欧米を席巻しつつある。「右」でも「左」でもない、「ダーク」な思想の台頭。このことは、現在の欧米社会にとって何を意味しているのだろうか。 インテレクチュアル・ダークウェブ(Intellectual Dark Web:以下I.D.Wと表記)なる知的ネットワークが存在している。インターネット上で「アンチ・リベラル」な主張を展開する(元)学者や言論人のネットワークのことだ。 ダー
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