・『鞄のなか』 その男はいつでも鞄を抱えていた。 それはそれは大事そうで、 そのなかに何が入っているのか、 誰も知らなかった。 もしかしたらその男自身さえも。 しかし、あるときに鞄のなかのことがわかった。 鞄のなかにあったものは、すべて、 その男のものではなかった。 どうしてそうなったのか、男にもわからなかった。 ・『夜の先』 夜の先には朝があるものだと、 信じてはいけない。 夜のおしまいというものがあって、 それをたしかめてから、おもむろに 朝がやってくるのだ。 夜のおしまいと、朝の出現のすきまに、 ことばのないものたちが、 世界を支配する時間がある。 泣いたり笑ったり怒ったり諦めたり、 ことばのないものたちの、 大活躍があるのだけれど、 それはあんまりあなたに影響しない。 安心してください。 ・『ぼくは嘘をつけない』 嘘をついたら、縦に真っ二つに裂けてしまう。 そういう特殊な身体に生ま
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