「泣ける」というキャッチコピーは、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』という作品をテレビで紹介する時に、一般の視聴者を惹きつけやすいフレーズではある。10月29日の金曜ロードショーでの『特別編集版』放送時にも「涙腺崩壊」がトレンドワード入りした。 だがテレビシリーズや劇場映画版、そして原作小説を読んで感じるのは、この物語が涙とともに流れ落ち、やがては乾いて消える消費コンテンツではなく、感情と理性、言語とコミュニケーションについての優れた寓話でもあることだ。 “人間になろうとする人形の物語”が描くもの 「自動手記人形(オート・メモリーズ・ドール)」は、この作品の世界観を象徴する造語である。作品中でそれは、過去に作られた機械仕掛けの自動人形にちなんで、生きた人間が行う代筆業全般をそう呼ぶようになったと説明される。 戦火の中で育った少女、ヴァイオレット・エヴァーガーデンには人間的な情緒が欠落し、