王者の首に刃を突きつける奇襲だった。 将棋会館東京将棋記者会室のモニターが映し出す特別対局室の盤上には、見たこともない陣形が広がっている。隣にいた観戦記者は「なんだこれ」と驚いた後で「これは昼までに終わりますね」と言った。まだ11時前だ。対局開始から1時間も経っていない。 若手の登竜門である第44期新人王戦を制した都成竜馬三段が臨んだ記念対局。相手は羽生善治三冠だった。いわゆるエキシビジョンマッチである。非公式戦で、正式な記録としては残らない一局だが、少なくとも都成にとっては真剣勝負だったはずだ。羽生の胸を借り、自らの腕を試すことができるのだから。仮に白星を挙げれば、何より雄弁に実力を示す看板になり、己の背中を押す自信にもなる。天才たちが四段(プロ)昇段への切符をめぐって弱肉強食の死闘を繰り広げる三段リーグに持ち込む、最良の財産となるのだ。 独創的な指し回しはプロ間でも高い評価を受け、奨
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