惨劇の記憶を今に伝える供養塔。 毎年の慰霊行事はいつしか行われ なくなったが、事件は風化していない =三重県名張市葛尾 奈良県境の山あいにある、三重県名張市葛尾地区。その一角に、のどかな集落とは不釣り合いな 供養塔がある。住民は半世紀前に、この場所で起きた惨事を思い出すたびに今も心がささくれ立つ。 1961(昭和36)年3月28日の夜。集落の宴会で、白ぶどう酒を飲んだ女性たちが次々に倒れた。 「地獄絵図だった」と語り継がれた事件。舞台となった木造の公民館は現在、ゲートボール場になって いるが、当時を知る人の記憶には、あの日の情景が鮮明に刻まれている。 乾杯からわずか数分後、年に1度のうたげは修羅場と化した。 「あかん、死んでる」。神谷武(72)は、苦しむ姉=当時(25)=を介抱している時、医師から告げら れた一言が頭から離れない。 男たちが慌てふためく中で、奥西勝(8