寿司が好きだ。 私にとって寿司はせつないご馳走なのだ。 今でこそ回転寿司が寿司を身近なものにしてくれたが、昔は寿司は特別だった。 夜中酔いつぶれた父が大声を出しながら帰宅し、無理やり起こされ眠い目をこすりながら食べた折詰に入った寿司。 できれば起きているうちに家族で普通に食べたかった。 「寿司だよ起きなさい」と言われしょぼしょぼした目で居間にいくと、蛍光灯がやたら目に眩しい。酔っ払って帰ってきた父と連日の飲み屋通いにムッとした母の殺伐とした夫婦の雰囲気の中で食べる寿司。気味の悪いシャコとかコハダとか余計なものも入っていて、薄い折詰に紐でくくった酔っ払いがご機嫌取りに持って帰るお土産の定番のアレだ。 でも酔いつぶれながらも寿司屋の親父に折詰を頼む時、少なくとも寿司の好きな家族の事を思い出していたのだろう。 田舎娘の上京が近づく。 高校を卒業し就職先の関東に上京することになった。 寮生活をする