スラヴォイ・ジジェクは、ある論文のなかで映画『カサブランカ』のなかにある謎めいた3・5秒のショットをとりあげて、二つの相反する解釈が可能であるとうい議論を紹介している*1。 映画のなかの、その場面だけに焦点を絞ると、「カサブランカ」の経営者リック(ハンフリー・ボガート)が、かつての恋人で、自分を裏切り見捨てた女性イルサ(イングリッド・バーグマン)から、なぜ裏切ったのか、その告白を聞く場面がある。すでにべつの男の妻になったイルサではあったが、まだリックを愛しているといい、二人は抱き合う。暗転。つぎにボギーは、窓辺にたって夜の飛行場の管制塔を、たばこをふかしながら見ているが、部屋のなかでは彼女がベッドに腰掛けている。ボギーはおもむろにふりかえり「それで?」という。彼女は告白を再会する。 暗転から「それで」までが3・5秒。この間になにがあったのか。もっと端的に言えば、ボギーはやったのか、やなかっ