“ざざーん、ざざーん” 遠く波の音を聞きながら、僕は弓を引き絞った。 ぎしぎしとしなる弓。 つがえた矢の、鋭い切っ先の向こうには少女が一人。 誰だろう? ぼんやりとした視界にさえぎられ、顔までは確認することができなかった。 だけど僕は、その、正体もわからない少女――なぜか、少女だということは理解できた――に、矢を放とうとしている。 今はそうしなければならない。 理由は、わからないけど。 夢。 そう、これは夢なのかもしれない。 その証拠に、僕の意思とは裏腹に弓は容赦なく引かれていくじゃないか。 弓矢の威力というのは、それに触れたことのない人間の想像を、はるかに絶するものだ。 この手を離せば、彼女は死ぬだろう。 ――だから、僕はその手を離した。 “びゅっ” 放たれた矢は、まっすぐ、正面にたたずむ少女めがけて飛んでいく。 それはコマ送りのフィルムでも見ているよう