実は先日、店主とふたりで鎌倉散策をした折に、アノ伝説のカリスマ写真家、中平卓馬氏と出くわしたのです。鎌倉に行くと、東慶寺の小林秀雄のお墓を必ず参るのですが、その参道の脇の喫茶店で休みがてら時局について語りあっておりましたところ、カメラをぶら下げた奇妙な二人組みが側を通って行きました。一般に写真家は自分の姿を公にしたがらないもの。ファインダーのこちら側という職業意識のせいか、少なくとも写真家自身が、文化的なアイコンとして時代の前面に出てくるのは、アラーキー以降のことです。 なかでも中平卓馬は、実質数年間の活動で永遠の名声の域に達したひと。その後はランボーさながら伝説の世界に逝ってしまい、尊顔を拝する機会は写真でもまずめったにありません。私が知るのはわずかに、あの森山大道が撮影した、例の有名な中平卓馬の写真(しかも横顔)のみでありました。あれから三十余年。間に昏睡、そして逆行性健忘症を挟んでの