3月末、「アステラス製薬」の日本人社員が、中国当局によって拘束されたことが判明し、在留邦人社会のみならず日本政府にも衝撃をもたらした。当該社員は同社の中国関連事業を長年担い、日系企業団体の幹部も務めてきた人物とされるが、中国の「反スパイ法」(2014年施行)に違反したとの容疑をかけられ、現在も拘束が続いている。 この事件の背景には、明らかに日本政府への牽制という意図がある。緊張の一途をたどる米中関係のなかで、岸田文雄政権は米国との連携を強め、海洋進出への対処、台湾問題、半導体技術に代表される輸出規制強化などをめぐって、中国に対して比較的強い態度で臨んできた。 一方で、中国は米国主導の「対中包囲網」拡大に神経を尖らせ、そこにくさびを打ち込むことを試みている。例えば今年に入ってからは、この数年悪化していた豪州との関係改善を図るなどの動きを見せている。 しかし、岸田政権は国内世論や米国への配慮も