2012年07月09日19:38 カテゴリ王位戦 鰻職人タケシの帰還 とある下町の夕暮れ時、街外れにある鰻屋は客もまばらで、おかみさんが客をさほど期待することもなくボンヤリと座り込んでいる。 すると深編み笠姿の浪人風の男が、静かに店に入ってくる。おかみさんが立ち上がると、人のいい―年増の色気を滲ませながら―笑顔で「いらっしゃい」と声をかける。 男は深編み笠をかぶったまま席に座る。 「何にいたしましょう。」 「鰻」。 男はボソリと答える。 「ハッ、その声は・・。」 男は何も言わない。 「おまえさんだろ、誰がその声を忘れるもんか・・。」 男はためらいつつも、ゆっくりと編み笠を脱ぐ。 「やっぱりタケシかい・・。まったくどこを ほっつき歩いていたんだい。あたしがどれだけ心配したか、あんたは分かっているのかい・・。」 おかみさはオイオイ泣き出す。男はただ一言ボソボソと、 「すまねぇ・・。」 以下、夫