坊(1)夏目漱石の『坊っちゃん』を子どもの時最初に読んだとき、坊っちゃんが悪いやつらをやっつける痛快な小説だと思った。そのうち、この小説の背後に流れる、痛切な哀しさ、社会の不条理に気付く。 坊(2)坊っちゃんと山嵐が、赤シャツと野だいこをなぐって、懲らしめる。痛快なようだが、結局職を失うのは二人である。赤シャツと野だいこはそのまま学校にいて、マドンナも赤シャツのものになってしまう。 坊(3)そもそも、坊っちゃんの生い立ちはさびしい。父親は顔を見る度にお前などロクなものにならないという。台所でふざけて叱られ、親戚の家にいる夜に母親が死ぬ。死んだのはお前のせいだと言われて兄につっかかり、またもや叱られる。 坊(4)肉親が皆坊っちゃんを疎外する中、唯一親切にしてくれたのが、きよ。きよだけが、坊っちゃんの心がまっすぐで良いと褒めてくれる。そのきよの愛を、坊っちゃんはなかなか素直に受け入れることがで