タイトルは反語。以下では、まずくない、という話をする。 1 直面原理について私たちは、絵画や音楽や映画や服や風景などについて、美的判断を下している。つまりは、「Xは美しい」「Yは醜い」といったことを考えたり言ったりしている。美的な観点からアイテムを評価しているのだ。あったかい服でもダサければ選ばないし、美しい風景なら苦労してでも見に行くという風に、美的判断は生活における選択を左右している。 美的判断というのは美学という学問のコアを成す主題(と言ってもよいだろう)だが、これをめぐっては強く支持されている原理がある。 直面原理[Acquaintance Principle] 直接の経験に基づくことなく、美的判断を下すことはできない。 その目で見てないならある絵画が優美かどうかは分からないし、その耳で聞いてないならある曲がかっこいいかどうかは分からない。読んだこともないのに『ユリシーズ』は壮大だ