古い町なみを壊してしまうのは簡単だ。 神戸に住み始めてこの2年数ヶ月の間に、私の狭い行動範囲だけでも稲荷市場のアーケードが残っていた部分と、宇治川の毎日市場がなくなった。どちらの市場(いちば)にも共通するのは、私が暮らし始めた時点では往年のにぎわいはすでになく、ほとんどの店舗がシャッターをおろしていたという点で、そこには海底深くに眠ったままの沈没船を思わせるような、時間の止まった静けさがあった。現在もよく行く神戸新鮮市場周辺をはじめ、灘や板宿や長田、三宮駅近くの二宮市場や大安亭(おおやすてい)市場に行けば神戸には今もまだまだ現役で活気ある商店街や市場の風景が見られるのだが、数十年後の未来にもこれらの文化が残されているのかと言えば、そんな保証はどこにもない。 私は東京の池袋に長く住んでいて、暮らしていた町が丸ごと再開発によって跡形もなく消失するという経験をした。何十年にわたる人々の営みがあろ