『戦後経済史』が刊行されます(日本経済新聞出版社、2019年4月1日)。「はじめに」「プロローグ」「第1章」を全文公開します。なお、本書は,『戦後経済史』(東洋経済新報社、2015年6月)を文庫化したものです。 ◇ 私は3月10日を生き延びた 私の記憶は、1945年3月10日の深夜に始まります。 猛火で赤く染まった空を背景に、B29の大編隊がこちらに向かってくる。圧倒的な力を持つ敵が、私たちを殺しに来た。それに対して、どうすることもできない。その極限の恐怖を、いまでもはっきりと思い出します。 私たち5人の家族(私、母、祖母、姉、妹)は、近くの小学校の地下防空壕に向かって逃げました。全員が防空頭巾をかぶり、幼かった妹をうば車に乗せ、途中でお地蔵様の前を、本当に転げるように走り抜けた記憶があります。そして、まったくの偶然によって生き延びたのです。 私たちと同じ防空壕に逃げ込んだ人々の大部分は、