海賊の“リクルーター”が現れた日のことをアブドゥルカデルは鮮明に覚えている。日陰であぐらをかき、何も考えることなく、ボーッとチャットの葉を噛み続けていた。チャットの葉には興奮剤の効果があるが、彼が噛むものは安物で質も低い。上質品を買うお金もない。だから、ひたすら何時間も安物チャットを噛みながら、裕福な“もう一人の自分”を夢見るほかにすることがない。そんな時、リクルーターが現れたのだ。 アブドゥルカデルは46歳になるまで水道水や電気の存在を知らずに育った。読み書きもできない。“肩書の上”ではレンガ工だが、村には建てるものなどない。不潔な環境のなか、6人の子供とその頃はまだ“一人”だった妻とすし詰めの状態で暮らしていた。“一人”なのは、もう一人養うだけのお金がなかったからだ。 もともと地元では、“武器を持たない者は男にあらず”だった。ただ餓死するのを待つだけという生活面の厳しさもあり、今で