大学三年の冬、俺は留年した。全てはシュレディンガーが訳の分からん式を発見しやがったせいだ。 事務棟はおんぼろで隙間風が酷い。俺の名前だけが書かれた留年者リストが風で丸まって、かさかさと耳障りな音を立てていた。 三日後、俺は実家に電話した。激怒するかと思っていた母の声が存外冷静だったので、俺は胸を撫で下ろした。 「来月から仕送り止めるね。」 母は淡々と告げた。 「来年度の学費も自分で何とかなさい。」 新年度の学費は五十四万円。納入期限は五月末だ。 俺は週一回だったパン工場のバイトを五日に増やした。十二時~十八時のシフトで二時間毎に十分間の休憩が入る。仕事内容は日によって異なる。今日はベルトコンベアで流れてくるショートケーキの上にいちごを載せ続ける仕事だ。ひたすら右手をボウルとコンベアの間を往復させる。 パン工場で働くコツは出来るだけ時計を見ないことだ。時計を見る度に絶望が体に蓄積していくから
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