本連載は、欧州で反響を呼んだ『シブヤで目覚めて』を上梓したチェコ人作家にして、東京在住の日本文学研究者でもあるアンナ・ツィマ氏が、”日本語”で綴ったエッセイです。 プラハ4区に生まれて 小説とは不思議なものだ。 スラヴ文学者の沼ぬま野の充みつ義よしは、外国の文学を読むことの意義は、「こんなにも同じなんだ」という思いと「こんなにも違うんだ」という思いを行ったり来たりすることだと述べている(『それでも世界は文学でできている』)。それは文学に限らず、異文化に出会った誰もが一度は体験したことがあるだろう。ただし、異文化や海外の文学に長く浸るうちに、昔驚いたことも日常茶飯になる(チェコ人は“日常のパン”と言う)。 そのため私は、イベントなどで読者から「日本で何に一番驚きましたか」と聞かれると、いろいろな驚きを経験したはずなのに頭の中が真っ白になり、何一つ思い出せない。帰り道の電車でやっと、昔驚いたこ