徒歩30分かけて最寄りの図書館に向かい、その日の心にピタリとハマる小説を一冊だけ借りる。席が空いていれば早速そこに腰掛けてページをめくる。 速読はしない。作家の手癖で紡がれた活字のリズムにトプンと浸ると、そこはもう本の中だ。 作者にもきっと思惑がある。この場面では読者をドキドキさせたい、ここでは泣かせて、ここは驚かせちゃおう――そんな想いを私は真正面から受けるようにしている。「どうせ泣かせたいんでしょ?」などと斜に構える心意気は、読書体験の邪魔なのだ。 何も構えず油断したゼリー状の心で読み進むと、その思惑が無防備なそれをブルンと打ちつける。感情は大いに揺さぶられ、時には刺され、抱き締められ、撫でられ、落とされ、掬われる。 そして「(ああ……!)」と声にならない声を上げると同時に、本に栞を挟んでパタリと閉じる。グワングワンと波打つ余韻の脈動。 目を閉じて、これに至るまでのハイライトを頭と心で

