沼正三とは誰か? 世の中には、沼正三代理人こと天野哲夫氏こそ、沼正三その人であるとする、「代理人=本尊説」がまかり通っている。果たして天野哲夫氏は「本尊」、即ち、小説『家畜人ヤプー』を構想・執筆し、また、エッセー集『ある夢想家の手帖から』を著した、沼正三その人なのだろうか? 本稿は、天野哲夫氏自らがしきりに喧伝し、なぜか世間でも通説とされているらしい「代理人=本尊説」の矛盾を指摘し、天野氏が弄する「沼正三=仮設人格」なる笑止千万の詭弁を論破しつつ、なぜ天野哲夫氏が本尊ではあり得ないかを論考するものである。 本稿は、沼正三の正体探しを意図するものではない。沼が覆面作家として登場したについては、やむにやまれぬ事情があったのであろう。それなのに、いわば興味本位からその覆面を剥ぎ、本人が隠したがっている素顔を暴こうとするならば、それは沼正三に対して無礼千万の所業であると考えられる。 本