「声優って、名刺に刷っただけでなれるんだな……」 音響関連を生業としているAさんは、先日依頼された現場で、そんな場面に出くわした。それは、あるオーディオドラマCDの制作現場。低予算ゆえに名のある声優なんてものはいない。けれども、商業作品である以上、演じているのはプロの声優のハズである。 でも、いざリハーサルの段階からAさんは「う~ん」と首を傾げるしかなかった。何度やっても、声にメリハリがまったくない女性声優がいたのである。 休憩時間にAさんは、その声優に尋ねた。 「このシーンは、どんな情景を思い浮かべていますか?」 「は……?」 何か、おかしなことを言ってるオッサンがいる。そんな顔で見られたという。 「オーディオドラマとはいえ、頭の中に構図とカメラワークを描いていないと成立せず、どんな収録現場でも最低限の知識としてプロの声優はシーンの構図を頭の中で描いているのは当然だと思ってるんですけどね