なかでも群を抜いて凄腕の殺し屋、世界第3位の早撃ちを誇る拳銃使いが、エースのジョーだった。 私が初めて彼に会ったのはまさにそのころ、私は小学生で場所は映画館の闇がりだった。当時は銀座の並木通りも神戸の南京街も、ときに湾仔のロックハートロードも、それどころか、私が生まれ育った横浜の霧降る波止場さえ、ここではなく彼方、日活映画の銀幕の中に存在していて(実際、調布撮影所には銀座8丁のオープンパーマネントセットが築かれていたのだ!)、そこにはヤクザではなくギャングが、警官ではなく探偵が、人殺しではなく殺し屋、犯罪者ではなく拳銃使いがひしめきあう暗黒街が隆盛を誇っていた。 モスラやミッキーマウスなら親に連れられて会いに行ける。だが、好き好んで伜を『暗黒街』へ導く親はいない。小学生がひとり、日活の映画館に潜り込むというのは、つまりそういうことだった。 ある夜、彼は銀幕を抜け出し、私の勉強部屋に窓から忍