伊藤勝彦・坂井昭宏共編『情念の哲学』東信堂、1992年3月、246〜72頁 平等感情と正義―QALYsに基づく医療資源配分― 1 資源配分論のふたつのジレンマ 正しい資源配分のあり方にかかわる問題、いわゆる配分的正義の問題には、ふたつのジレンマがあるように思われる。そのひとつは、配分的正義に関する伝統的見解が自己撞着的な表現を使用せざるを得なかった、という点にある。 常識的には、正義とは平等な権利を意味するように、正義と平等との間には密接な関係がある。歴史上の社会的正義の実現を求めた闘争、たとえば奴隷制、専制政治、植民地主義に対する闘争、小数民族および女性解放運動などは、いずれも平等な権利を要求する運動であった。両者の密接な関連は、言葉の上でも明かである。「不正は不平等であるとすれば、正しさは平等である。これは論証をまたずに誰でもが認めるところである」とアリストテレスはいう。 しかし、