1 『南方熊楠日記』の中に、捨身行者・実利(ジツカガ)の墓に触れた所があったので抜きだしておく。『南方熊楠日記』(八坂書房)の第2卷、1902年(明治35年)2月18日の前半部 午前11時過一寸出、フウトウカヅラ果なれるものをとる。午後宅後の山を歩し、金山の上に至り、更に西北へ上り、宅後の上の墓場(イバガノとて那智神官等葬し場)<此所にジツカゞ行者とて12年斗り前に滝上より飛下り終りし人の墓あり、大阪の講中より建しと。>より直下して帰る。菌、地衣若干を得たり。 < >の部分は熊楠による追記。フウトウカヅラは風藤葛で、初夏、黄色の花穂をつける。果実は小球形で、秋から冬にかけて赤く熟す、という。熊楠は、風藤葛に赤い実が付いているのを採って来たというのである。林実利が那智の滝上から座禅を組んだまま飛び下りたのは明治17(1884)年4月21日のことである。 実利の墓は翌年正月2日の日記にも出