トクヴィルの憂鬱 フランス・ロマン主義と〈世代〉の誕生 [著]高山裕二 革命とナポレオン専制を経た19世紀前半のフランス。身分制から解放された「新しい社会」には、自分が何者でもないという不安に苛(さいな)まれる「新しい世代」が誕生した。社会的拘束から自由になり、個人として偉大な事業を成し遂げたいという野心を持つ一方で、彼らは明確な存在根拠を失い、平準化する社会の中で孤独感と恐怖に苦しんだ。 トクヴィルは、新しい世代の苦悩を体現する人物だった。彼は「全般的な懐疑」の念を有し、不信を深めた。彼は人間の不完全性を自覚し、理性では掌握できない精神的な次元を人間が有していると考えた。トクヴィルは「絶対や完全」を根本から疑った。しかし、「見失われる恐怖」にとりつかれ、絶対を熱烈に探求した。彼は「存在しないと自覚しながらそれを渇望する」という矛盾を生きなければならなかった。 この逆説は、確信の持てない絶