ゾンビには意識が存在しない。だが、そのことは彼らに「生活」が、「日常」が存在しない、ということを直ちに意味しない。 ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』(1978)には、ショッピングモールに集うゾンビたちが登場する。彼らが綺羅びやかなショッピングモールに向かうのは、生前の習慣からであり、無意識の領域に降り積もっていく諸々の習慣が彼らの「本能」(instinct)を形づくる。ゾンビに意識はない。それでも、彼らは彼らの日常生活を送ることができるのだ。それが、たとえ見かけの上でしかないとしても。 もうひとつ、ゾンビが人間と異なるのは、ゾンビは非常事態下においても彼らの日常生活=習慣を遂行しようとする点だ。しかも、その非常事態は取りも直さず彼らの日常生活それ自体によって引き起こされている、ときている。ゾンビは革命を起こさないし、いかなる思想も持たない。彼らはいつものようにショッピングモールに向かう。す