ヴォルフとスピノザとの関わりには、二つのフェイズがある。(1)ヴォルフが哲学に進出した際に起こった、啓蒙主義哲学と敬虔主義神学との対立を背景とした論争。(2)後にヴォルフが著した『自然神学』におけるスピノザ解釈。 今回の報告では主として(2)を取り上げるが、その際、次の二つの視点を用意することにする。(a)そのスピノザ解釈の特徴、(b)思想史的意義。1:上記の論争でヴォルフは、神学者たちから「スピノザ主義」との非難を受け、その「汚名」を振り払うために自説とスピノザ主義との相違を明らかにしようとしていた。そこでのスピノザ理解は必要に迫られたディフェンシブなものである。 2・a:それに対して、『自然神学』における解釈はかなりまとまったものである。とりわけヴォルフは、スピノザのテキストに取り組むことを明言している。これは従来の通俗的なスピノザ主義理解とは一線を画した、この時期では貴重なものである