ピロリ菌(Helicobacter pylori)は古くからヒトときわめて密接な関係を築いてきた生物だが,その存在が認められるまでには1世紀以上もの年月を要した。1875年にはすでにドイツの解剖学者が,らせん状の細菌がヒトの胃の粘膜層にすみついているのを発見していた。だが,この微生物を純粋培養できなかったために発見は無視され,やがて忘れ去られた。 1982年にようやく,オーストラリアの医師マーシャル(Barry J. Marshall)とウォレン(J. Robin Warren)がピロリ菌の分離に成功し,胃におけるこの菌の働きが真剣に研究されるようになった。その後の10年間で,ピロリ菌に感染すると消化性潰瘍(胃や十二指腸の粘膜のただれ)を発症するリスクが高まること,また,ピロリ菌は最も一般的な種類の胃ガンを引き起こす可能性があることが明らかになった。 しかし,ちょうどピロリ菌の重要性が認識
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