岩波文庫の『堤中納言物語』を見てみたら、これも『今昔物語集』同様「振り仮名は現代仮名遣いに改めた(本文の仮名遣いは原文通りとした)」となっている。仮名遣いが本文と振り仮名で違うなんてポリシーがいったいだれにとって嬉しいのか、理解できない。 古典を活字化するにあたってどういう表記方針を採るかというのに校訂者のセンセイ方が苦心しているのだろうというのは想像できるけど。 活字本の底本となる写本の仮名遣いというのは、じつは古語辞典の見出しを構成している歴史的仮名遣いとも違っている。歴史的仮名遣いというのはいってみれば語源をさかのぼって人工的に復元された仮名遣いであって、「い」「ゐ」、「お」「を」、語中の「は」「わ」といった仮名同士は、現実には慣例的な使い分けが実践されていたにすぎない。だから「ゆへ」とか「まひり給ふ」などと書かれている。これらは歴史的仮名遣いとしては「ゆゑ」「まゐり給ふ」となってい