喉の詰まる感覚をおぼえて自席を離れた。なにかがときどき彼の喉に発生するようになって数ヶ月が経つ。何を飲んでも流れないけれども儀式めいてなにかを飲む。自動販売機の前で彼は立ち止まる。梅雨冷えの空気に肌が薄く粟立ち、よく冷えた缶が飲み物に見えなかった。 コーヒーを飲もうと思う。管理職が私物のコーヒーメーカを持ちこんでいる部署がある。顔を出すと当の管理職である加賀さんだけがいて彼はひどくうろたえる。コーヒー淹れましょうかあと言われて、なんだか逃げ場がなかった。時間を考慮せず申し訳ございませんと彼は言う。加賀さんはへんな顔をして、僕が淹れるコーヒーが飲めねえかあ、と芝居がかった口調をつくる。 ああ中堀さんコーヒーですかと声が聞こえて彼はびくりと振り返る。加賀さん唐揚げ弁当ありましたよ。わあい。槙野さんは何たべるの。豆サラダとおにぎりです。ダイエットお?やだねえ。ダイエットがいやなのは加賀さんです。
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