うちに来ればいい。彼は何度も何度も、従弟に向かってそう言った。まだ社会人三年目のワンルーム住まいだけれども、子どものころから知っている従弟ならそこいらにいたってとくに気にはならないし、自分と同じものを食わせるくらいの収入はある。従弟の高校にも通えない距離ではない。 そういう話をすると従弟はいつも笑ってはぐらかした。どうせなら女の人の家がいいなあ、とか。でも今日ばかりは、彼がそれを許さなかった。従弟が真顔になると額の上部にある新しい青痣がより青く見えた。脳に異常もなかったし、この痣は治るだろうと彼は思った。 でも、と彼は思う。従弟の鼻筋がすこし曲がっているのはもう治らない。これは従弟が中学生の終わりごろに殴られた痕跡のひとつだ。それが最初の大きな怪我で、彼が従弟の現状を認識する契機になった。彼の母の弟がこの従弟の父であって、いつの間にかしょっちゅう酒を飲んでものを投げるようになっていた。拳で