思いもよらぬ様々な「偶然」が重なって起きるある殺人事件を描いたサスペンス『悪なき殺人』の鬼才ドミニク・モル監督が、新たに挑んだテーマは「未解決事件」だった。そして、この『12日の殺人』は、フランスのアカデミー賞に相当するセザール賞(2022)で、最優秀作品賞、最優秀監督賞をはじめ、見事最多の6冠に輝いている。 「未解決事件」、この言葉に人はどこか強く引きつけられる。それは、謎を解き明かしたい、真実を知りたいという、人間の根源的な欲望を刺激するものだからかもしれないが、そのテーマは、実際に起こった事件をもとにしたものであれ、完全なるフィクションであれ、これまで数多くの優れた映画監督たちをも虜にしてきた。 『12日の殺人』は、中でも、モルがフィンチャーの映画でもっとも好きだと公言している『ゾディアック』のように、行き詰まるような犯人探しだけでなく、事件にのめり込むうちに、いつしか私生活にも影響