昨年ソニーが起こした顧客情報流出問題により、同社初の外国人CEO兼社長・ハワード・ストリンガー氏に対しては内外から厳しい目が向けられている。しかし、トップの求心力低下の端緒は、すでに前社長・出井伸之氏の時から現れ始めていた。ノンフィクション作家の立石泰則氏がリポートする。 * * * じつは後で分かったことだが、出井氏が2000年に大賀典雄氏からCEOを引き継ぎ、名実共にソニーのトップになったとき、すでに彼の権力基盤は揺らぎ始めていたのだ。それを決定づけたのは、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)社長の久多良木健氏との軋轢である。 翌年春、出井氏はSCEのCOO(最高執行責任者)に、本社上席常務の野副正行氏を任命した。本社から子会社への役員派遣は、珍しくもない普通の人事異動である。しかしSCE社長だった久多良木健氏は、この人事異動に激しく反発し、最後には白紙撤回させてしまう。