日本小説技術史 [著]渡部直己 坪内逍遥『小説神髄』から横光利一『純粋小説論』まで、半世紀にわたる文学作品を「技術」というテーマで語り抜く。つまり本書は、これまで“何が語られてきたか”のみを扱ってきた近代文学史に対し、“どう語られてきたか”を徹底して読みとる。「技術以外の何が小説にあるのか?」と、冒頭から我々を挑発しながら。 まず著者は、逍遥がその前近代性を批判した曲亭馬琴の小説制作術「稗史(はいし)七則」のうちの「偸聞(たちきき)」から話を始める。歌舞伎や黄表紙、いやそれどころか逍遥自身の小説にさえ「偸聞」は横溢(おういつ)する。我々も時代劇などで観た「話は全部、そのフスマの陰で聞かせてもらった」というパターンだ。 むろんここには、同じ話を繰り返さずにすませるための「省略」という技術的要請がある。だが、著者はその先にスリリングな小説論を用意している。作品は読者によって読まれているのだから