18世紀末のことだ。 産業革命はとどまるところを知らずに拡大進展し、フランスでは政治革命まで起こった。 人間も社会も何もかも、どんどん改良されていく。 きっと将来、「理性」の力で万人の幸福が実現されるだろう。 誰もがそう夢を見た。人々の視線はまっすぐ前方に、いや、斜め上方に向けられている。 そんな時代に、トマス・ロバート・マルサスは、「人間は、理性の力ではどうにもできない不幸な宿命を背負っている」と主張する本を書いた。 彼はイギリスの経済学者にして聖職者。1798年に出版されたその本は、『人口論』である。 マルサスの「ふたつの公準」 マルサスは、『人口論』の冒頭に、ふたつの公準を置く。 「公準」とは、「証明はできないけれど、話の前提とさせてもらう事柄」だ。 これが議論のスタートラインだ。 食糧に余裕があれば、人口は増える。 人口が増えれば、その分、よけいに食糧が必要になる。 だから、人口の