小さい頃から、欧米の物語が好きだった。ヴィクトリア朝の庭。石畳の街角とガスランプ。僕の毎日と全くかけ離れた世界は、いつも僕に遥か想像の旅をさせてくれた。こんなに素晴らしい物語を持つ人々に、心から憧れていた。彼らは物語の世界に住んでいる。 今、僕らもある種の物語の世界に住んでいるらしい。未来の喪失感が後戻りの出来ないレベルまで全社会を蝕むこの国だけれど、不思議と各種の喜びが花開いている。日々の彩りに紡がれる小さな物語たち。そんなささやかな世界に興味を持つ、海外の人々がいるらしい。 あまり役に立たない。ただ語り、語られ、歌い、歌われる変な趣味。ニコマスが今この国、この時に存在していることには、何かがありそうな、ないような。ただ一つ確かなこと、僕はこれが好きだ。僕らの時代に咲いた、僕らの時間の物語が。 いつか僕が貰った喜びを、誰かまだそれを知らない人に伝えることができるなら、それはとても幸せなこ