日常ばかり取り上げたのに、全国に読者が1万人もいた「特異な町」の情報紙/イノシシとのにらめっこや居酒屋の開店情報、新しいバス路線の開通 茶色く丸いおしりとの「にらめっこ」が始まって、もう5分がたってしまった。相手は夜の田舎道の真ん中で悠然と寝そべる2頭のイノシシだ。 2019年夏、役場職員の佐藤由香(さとう・ゆか)さん(34)は帰宅途中の車内で途方に暮れていた。車を近づけてもライトで照らしても動く気配はない。 「…プーッ」 恐る恐るクラクションを鳴らすと、ゆっくり林の中へ立ち去ってくれた。「突進されなくて良かった」とほっとした。 この体験を町の情報紙の記事にした。見出しは「出没!イノシシ」。全て手書きで、イノシシが前脚を上げてあいさつするイラストも付けた。 町の日常ばかりを取り上げた情報紙だが、読者は全国に約1万人いた。そこは「特異な町」だった。(共同通信=西村曜)