自閉症スペクトラム障害の話。ネビュラ賞受賞と書いてあったけれど、読んでみるとSFっぽさがないように感じられるので、却ってSFの懐の広さを感じてしまう。主人公の心内描写がスペクトラムのひと独自の感性で語られるのが、興味深かった。新鮮さと裏腹の違和感を持ったり、ああここは僕もそう感じることがあるな、などと読み進めるとスペクトラムのグラデーション性が感じられて面白い。 前半部分で語られる自閉症スペクトラムのひとの「内面」によって読者も擬似的にそういう自我を体験できる仕組みで、その自我が後半になって登場する「自閉症の特効薬」のために失われる悩みが戯画的に描かれる。誰しも自我が失われるのは怖いわけで、「その方が社会で生きやすくなるよ」と言われたって、逆に「社会って誰の社会じゃい」と「でも生きやすくなるなら」との間で悩まずにはいられない。 「健常者」と呼ばれる人たち(ムーンの翻訳では「ノーマル」)の権