昔、外の世界も他人も信じられず、精神的にも物理的にも塞ぎ込んでいた時期があった。 同時に、自分が特別な「何者か」ではないかと、その正体を必死に探していた時間でもあった。 最近、そんな青く苦い過去を思い出したきっかけがある。 それはある日、機会があってSMバーに初めて行った時のこと。客とスタッフが思い思いのコミュニケーションを取る中、私の隣にいた常連客らしき人に声をかけられたのがきっかけだ。 「この店に来るのは初めて?」 「ええ」 他愛もないやりとりをしたのち、常連客にこう質問された。 「あなたは、Sですか?Mですか?」 「…………」 実のところ、自分はどちらかであると思ったことはない。というか、判断基準がわからなくていまいちピンとこなかった。 「わかりませんね。あまり考えたことがなくて」 ひとまず正直にそう答えたその時、相手は明らかに怪訝な顔になった。 「でも、どちらかだと思ってこういう店