シャルル・ペロオの童話に「赤頭巾(あかずきん)」という名高い話があります。既に御存じとは思いますが、荒筋を申上げますと、赤い頭巾をかぶっているので赤頭巾と呼ばれていた可愛(かわい)い少女が、いつものように森のお婆(ばあ)さんを訪ねて行くと、狼(おおかみ)がお婆さんに化けていて、赤頭巾をムシャムシャ食べてしまった、という話であります。まったく、ただ、それだけの話であります。 童話というものには大概教訓、モラル、というものが有るものですが、この童話には、それが全く欠けております。それで、その意味から、アモラルであるということで、仏蘭西(フランス)では甚だ有名な童話であり、そういう引例の場合に、屡々(しばしば)引合いに出されるので知られております。 童話のみではありません。小説全体として見ても、いったい、モラルのない小説というのがあるでしょうか。小説家の立場としても、なにか、モラル、そういうもの