まず、決定的に重要だと思うのは、大平が香川県の農村の出身であるということです。ものすごい極貧というわけではないにせよ、裕福とはいえない質素な暮らしの中で育った。これは彼の政治家としての歩みにおいても、とても大きな意味を持ったと思います。 また、日経新聞に連載された『私の履歴書』など、大平が自分の歩みを振り返って書いたものを読んでいて感じるのが、そこに「死者」の存在が色濃く出ていることです。たとえば、彼が何度か書いているのが、幼いころに家にいて、大平のことをかわいがってくれた、「おしげさん」というお手伝いの女性のこと。ある日、彼女が幼い大平を背負ってあやしていたときに、彼の額を石畳の角にぶつけてけがをさせてしまう。それを見た母親が慌てて飛んできて手当てをしてくれたという話なんですが、これは「おしげさんが悪い」という話ではないんですね。大平が書いているのは、背負っていた子にけがをさせてしまった