『脚本家―ドラマを書くという仕事―』(中園健司著・西日本新聞社)より。 【橋本忍(1918〜)は、日本を代表する偉大な脚本家(シナリオライター)です。 映画『羅生門』『七人の侍』『生きる』『白い巨塔』『砂の器』、そしてテレビドラマでは『私は貝になりたい』など、日本の映画史、テレビドラマ史に刻み込まれる名作を書いた脚本家です。その橋本忍のお弟子さんである国弘威雄が『橋本忍 人とシナリオ』に寄せて書いた文章にその記述があります。 師匠に何度も何度も同じシーンを書かされ、もう一字も書けなくなった時、こう言われたそうです。 「どうして書けないんだ。いや、大体、君はそこのシーンをうまく書こうと思うから、行き詰まってしまうんだ。うまく書こうと思うな。上手に書こうと思うな。もっと平凡な、単純な、幼稚でもいい、子供の作文のような形でもいいから、とにかくそのシーンを書いてごらん。それで形ができたら、それを直