山本は泣いていた。 もう10年くらい前になるだろうか。この季節になると必ず思い出すことがある。この年になると誰かに褒められたり怒られたりすることはほとんどない。直接的に評価されることがほとんどないのだ。ただ、確かにあの時はそれがまるで人生のすべてと考え、欲していた。誰かに評価されたかった。だから山本は泣いていたのだ。 笑い声と喧騒、そして過剰なまでに元気な店員の声とで満たされた居酒屋で、山本は泣いていた。通路向こうのテーブルで女の肩を抱き、緩みきった情けない表情を見せているロック歌手風の男が見せるその笑顔とは対照的に、山本はただ泣いていた。 (写真:naka/PIXTA) 「俺、もう辛いわ」 山本はそう切り出すと、ジョッキの生ビールを空にし、また泣いた。久々に会うことになった山本は僕の知っている山本ではなかった。彼は自信に満ち溢れていたし、受験や就活といった人生の節目において、常に理想を実
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