『比較民俗研究』器.2009/3 現代人における年中行事と見出される意味 一恵方巻を事例として− 沓沢博行※ 1.はじめに 私は、秋田県秋田市で生まれ育った。秋田といえば、一般的な認識からすれば民俗の宝庫で ある。男鹿半島を中心に年末に家々を巡るナマハゲを代表として、伝統的に営まれている様々 な民俗文化が想像されるだろう。しかし、私自身はそういった民俗文化とは無縁に育ってきた。 私が住んでいたのは、秋田市の中でも新興の住宅街で、いわゆるニューファミリー層が多く住 む地域であった。そこで高校卒業まで暮らした18年間の中で、私が今学んでいる伝統的な民俗学 において取り上げられるような出来事ほ本当に何一つなかったように思う。私は秋田の方言す ら殆ど喋ることができない。 大学進学と同時に東京に移り住んだ私は、様々な地方の出身者と出会うこととなる。そして そこでは、秋田出身ということでナマハゲの話