実は私はかなりのボクシングファンなのだが、それを知っている編集者の友人が面白いことを教えてくれた。ハワイの日系二世作家が書いた作品に、貧困から抜け出すためにボクシングを始めるという描写があるという。さらに、著者の意向で邦訳NGとなっているそうだ。それがミルトン・ムラヤマ(1923-2016)の連作短編集All I Asking For Is My Bodyだ。早速取り寄せて読んでみたが……この作品はボクシング小説云々以前に、文化と文化との間に揺れ動く人々を103頁に一文の無駄もなく詰め込んだ、移民文学の傑作だ。 ミルトン・ムラヤマ(1923-2016)は、九州からのハワイ移民の子として生まれる。1941年、高校卒業後にハワイ大学へ進学。同年12月、真珠湾攻撃によって日本とアメリカが交戦状態となると、ムラヤマは日本語話者として台湾へ送られ、日本兵捕虜などに対して通訳などの任務に就いていた。戦