本名が変わることになる。 まずは名字、そして名前も。 名字が変わる可能性は考えなかったわけではない。 厳しい仕事の帰宅途中や、休日に家でぼんやりしている時に 誰かが私を連れ去って、そしてそこに嫁ぐことになり相手のことだけをシンプルに考えて過ごす生活になればいいのに というようなシチュエーションを妄想することはあった。 昔話のお姫様のように。20代後半の男が。単なる現実逃避として。 万が一そうなれば名字は変わることもあるかもしれない。 しかし名字自体はどこにでもある学年に一人はいるような珍しくないもので、 積極的に守っていきたいというような愛着が私にはなかった。 また、高校まで育った地元は長男が家を継ぐというのがまだそれなりに概念として残っているような田舎だけれども 私は次男であり両親的にも問題ないだろう、と思っていた。 さて、現実である。 大学で都会に出てきた私はそのまま大学時代の住居から