戦争が終わったのは、入営の数日前だ。数年後に発病した肺結核には、服用薬が奇跡的に効いた。「I was bornさ。受け身形だよ」。死の淵(ふち)から蘇(よみがえ)り、生命のありがたさをかみしめるなかで、ひとつの作品が生まれた。これが先日、87歳の生涯を終えた詩人、吉野弘さんの出発点となる。 ▼平易な言葉で、人間の不思議に迫る作品は、小欄を含めて多くのファンに恵まれた。なかでも人口に膾炙(かいしゃ)しているのが、「祝婚歌」だろう。「二人が睦(むつ)まじくいるためには 愚かでいるほうがいい」。結婚式のスピーチで引用される、詩の定番である。 ▼結婚式場のパンフレットに使いたい。吉野さんはこんな問い合わせに、「どうぞ自由にお使いください」と答えるのを常とした。ところが、高校国語の教科書に掲載したいという申し入れには、辞退の意思を伝える。 ▼結婚が当面の課題ではない高校生には、ふさわしくない。詩を本