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  • ロマンチック・ラブの行方――新海誠「君の名は。」 - subculic

    新海誠監督は以前、「ロマンチック・ラブの否定」という言葉を口にしたことがある。ロマンチック・ラブとは、恋愛対象を運命の相手と認識する社会学上の概念。新海アニメは、少なくとも『星を追う子ども』までその否定を出口にしてきた。失恋であったり、物語的な別離であったり、とにかく恋愛が成就して終わることはなかった。ヒロインを救い出した『雲のむこう、約束の場所』にしても、「あの後に待つ展開」はおそらく同じ出口を通っただろう。 風向きが変わったと感じたのは『言の葉の庭』からだ。成熟した作家の余裕があった。冷静で肯定的、それでいて否定的な部分も削ぎ落とさず、一歩引いたところから制作しているような、年輪のある作品。だから自分は新海アニメの中で『言の葉の庭』が一番好きだ。46分という中編の尺も作家に合っていると思ったし、バランスがいい。 そして3年ぶりの新作『君の名は。』が、ついに公開された。 今回は劇場長編ア

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  • 新海誠作品の「食」と野菜 - subculic

    新海誠作品は野菜の切り方がいい。たとえば、『言の葉の庭』のトマトとゴーヤを手際よく切って盛り付けていくシーン。タンタンタン、とリズミカルに切っていくのが新海流。 ここで作っているのは冷やし中華。思春期の“苦み”を描く作家らしく、盛り付けの野菜も苦みで選ぶのか、と当時は穿った見方をしてしまったのだけど、真相は奥さんの作るものを参考にしたようで。「新海さんちの冷やし中華」だったのだ。 ところで、新海アニメの「」はちょっと変わった特徴を持っている。卓に「不在」が並ぶのだ。父親か母親、もしくは両方いない状態で事をすることが多く、一家団欒に不在が何気なく横たわっている(近作はそれが当たり前になってきている気もする)。最新作『君の名は。』でもそうだし、『言の葉の庭』や『星を追う子ども』を振り返っても同じ。卓の風景にも新海の代名詞である「喪失感」が入り込んでいるわけだ。例外はショートフィルム・N

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  • 無名ちゃんの足を知りたい! - subculic

    アニメージュで連載している「バリウタの愛を知りたい!」が好きだ。荒木哲郎と平尾隆之による対談コラムで、演出家ならではのマニアックなトークが楽しめる個人的なアニメージュ3大連載のひとつ(後二つは「この人に話を聞きたい」と「設定資料FILE」)。そこではたまに、自身の監督作についての背景や制作秘話が明かされる。先月のアニメージュ2016年5月号(4月10日発売号)掲載の「バリウタ」はタイムリーに『甲鉄城のカバネリ』の制作エピソードが披露された。とくに好奇心を煽られたのはこの話だ。 第1話の絵コンテをあげた時、オレのなかでの達成感は、まずは「この内容を20分に収めてやったぜ!」ってこと。もうひとつは、「無名ちゃんが最後、回し蹴りでカバネの首を落として、下駄に仕込んだ刃が鳥居に刺さって抜けなくなって下駄を脱ぐってシーンを、ついに描いた!」ってことだからね。もう企画段階から言いまくってて、「刺さった

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  • 「ふらいんぐうぃっち」の挑戦と生活実感 - subculic

    アニメ『ふらいんぐうぃっち』を観ていると、かつてあずまきよひこが自身の漫画『よつばと!』が何故アニメ化されないのかという問い合わせに答えていたことを思い起こしてしまう。 よつばが出掛けるまでの様子を引き合いに出し、「よつばがよいしょよいしょっと階段をおりてきて、てけてけと廊下を歩き、でんっと玄関に座ってヘタクソにを履き、よっこらしょっと重い玄関のドアを開けて、元気よく家を出て行く。そういう、普通アニメでカットされそうな描写もやらないと、アニメにする意味が無いと思うんです。で、こういう日常の演技描写はアニメの最も苦手とする分野です」、と。要するにこれは、よつばの全身をフレームに収めて動かすことを前提としている。キャラクターの全身を映した日常芝居は作画のカロリーがきわめて高い。もちろん、それを活かす演出あっての話だが、よつばの動きをアニメーションで描くのは、アニメーターへの負担がとんでもなく

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  • 「境界の彼方」ストップモーション風アクションと機動力 - subculic

    2013年に放送されたアニメ『境界の彼方』には独創的なアクションがある。 多彩なバトルシーンが特徴の作にあって、異彩を放つストップモーション風の剣捌き。第2話で披露されたこのアクション、タメツメの効いたタイミングが爽快で影付けもスタイリッシュ。スピード感溢れる殺陣に仕上がっている。驚いたことに、原画マンのアドリブだというのだから衝撃的 *1 。コンテでは暗闇の中で閃光が走る一瞬の斬撃を狙った感じだったらしいが、担当したアニメーターの奔放な想像力とそれを形にする手腕によって見事に昇華されている。原画の枠を越え、演出的な回路で描かれた物のようにも思える濃密な仕事だ。 これを受けてだろう、第4話のアクションシーンにも同様の発想でストップモーションが使われていることに注目。 当初、2話と4話の演出を担当した武康弘がこのアクションを気に入り、コンテに描いていたのだろうと思っていた。しかしどうやら

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  • 話数単位で選ぶ、2015年TVアニメ10選 - subculic

    年の瀬の恒例企画となったテレビアニメ話数別10選。一年を振り返りながら、今回は何度も観たくなる話数を中心にセレクト。 以下、コメント付きでリストアップ。基的に放送日順(最速放送日)で並べている。 ■『SHIROBAKO』 第23話「続・ちゃぶ台返し」 (3月19日放送) 脚/吉田玲子 絵コンテ/許蒴、菅沼芙実彦 演出/倉川英揚、太田知章 作画監督/大東百合恵、秋山有希、川面恒介、武田牧子、容洪、朱絃沰、西畑あゆみ 宮森あおいの「泣き」が話題をさらったシリーズの集大成。作中のカタルシスと現実のそれが入り交じり、相似形をとって一気に解放されるさまは爽快な感動があった。キャスト陣の熱演も光り、最後は西畑あゆみ、石井百合子による迫真の作画リレー。泣き作画の石井百合子、面目躍如の大活躍。 ■『血界戦線』 第5話「震撃の血槌」 (5月2日放送) 脚/古家和尚 絵コンテ/松理恵 演出/孫承希 作

  • 「ガールズ&パンツァー 劇場版」を観て - subculic

    とにかく、テンポがいい。洒落ているとさえ思った。特にトップシーンが秀逸だ。漂ってくるのは紅茶の香り。優雅にティータイムを楽しむ、見慣れた赤い制服。しかしカメラを引くと、砲声鳴り響く戦場のど真ん中という状況。いったい、何が起こっているんだと観客もその中に放り込まれる。説明をしないのがまたいい。描写を重ねるうちに少しずつ全容をみせていき、成る程、これはエキシビジョンマッチで大洗と知波単学園が組んだ混成チーム、相手は聖グロリアーナと――え? なんて風に、状況をひとつ明かしていくと同時にサプライズをひとつ提供し、好奇心をくすぐっていくわけだ。その上、伏線の張り方も気がきいている。たとえば、一時帰省しみほを待っていた普段着のまほ。貴重なオフショットにグッときてしまうが、そんな普段着の姉の姿が実は伏線なのだ。まほの秘めたる想い、姉妹の絆、ドラマの縦糸はそこからするすると伸びていく。そして最終決戦、みほ

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