sophia 小葉武史 はじめに 僕がこういう話をすることになったのは、彼女に頼まれたからで、いくらなんでも、女の子を前にして「哲学」の話をするっていうのは、いささかイカレていると思う、もちろん、いささかイカレ気味の僕だってちゃんとそう思うのだ。 年ごろの二人は、ふつう、そんな話はしない。いっしょに歩いて、手が触れたとか触れなかったとかに一喜一憂しながら、「存在とは何か」なんて考えるだろうか。「僕と君とは弁証法的に愛し合ってるんだ」っていう告白は成功しないだろうし、だいたい意味が分からないし、もしも、成功したとすれば、相手の女の子も相当イカレているに違いない…。 話をもどそう。 彼女にはじめて会ったのは、もう一年以上も前のことになるだろうか。僕は一浪して大学に入り、以来、塾講師のアルバイトをしていたが、それがようやく軌道に乗ってきた頃だったから、たぶん六月のおわりくらいのことだ